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2013年1月25日金曜日

安田峰俊さんの「和僑」を読んで

昨年12月に発売された安田峰俊さんの力作「和僑」を読了しました。あとがきにあるように、この本の登場人物は、マカオの欲望の海を泳ぐ華僑の富豪、金銭とロマンを求めて男たちを狩り続ける風俗嬢、上海に二一世紀の日本人町を作り上げている駐在員たち、魔都の夜に君臨する暴力団組長、北京で日中友好の幻想に翻弄された心正しき人たち、雲南省の農村に住む2チャンネラーと、多種多彩です。

私も、豪州ブリスベンと台湾とを行き来して生活している和僑の一人として、多くの和僑たちに出会ってきましたが、それぞれの方がこの本の登場人物同様に個性的で、海外で生活することになった経緯や人生の目標、価値観も異なる方々ばかりです。私自身の生き方も、この本の登場人物たちとは大きく異なっていると思います。そして、この本の登場人物たちを取り巻く中国人、中国社会も同様に様々な側面をもっています。

日本の報道では、経済発展や、民主化運動や尖閣問題に関係するデモや暴動などばかりが注目されていますが、同じ大都市でも、北京と、上海と、香港・マカオなどを含む広東省の珠江デルタの町では、環境も習慣も言葉も文化もまったく異なります。おそらく、ゲルマン系の英独や北欧諸国などの間、ラテン系の仏西伊などの間での違いと同じぐらい異なるのではないでしょうか。私自身にとって関わりの深い台湾も、同じ中華圏でありながら、政治体制だけでなく、文化や習慣、言葉などの面で、中国大陸の他の省とは大きな違いがあります。沿岸部から遠く離れた中国の内陸部や、都市以外の中国の農村については私は詳しくはありませんが、西側社会や中国の大都市の常識が通用しない世界が広がっているのではないかと想像しています。

こうした多様性あふれる中華世界ですが、台湾や香港、シンガポールなども含めた中国人社会に共通しているのは、複雑きわまりない混沌とした摩訶不思議な魅力だと思っています。「日本人はこうだ」、「日本社会はこうだ」と一言で断言するのが難しい以上に、中国人や中国社会を十把一絡げに語ることは困難です。その訳の分からない無秩序さが、おそらくデモや暴動の背景にあるのであり、隣国である日本としては、その無秩序さに振り回されながら自分の居場所を探して求めていく能力が必要になっていくのかもしれません。

この本の登場人物たちは、そんな混沌とした中国社会の中で自分の生き方を探し出し、自分の居場所をみつけ出しているようです。今後、嫌でも中国とつきあって行かざるを得ない中で、中国にあまり関心のない人にとっても、彼らの生き方は大いに参考になるのではないかと思います。

2013年1月21日月曜日

セミナーが無事終了

1月12日(土)に東京で開催したセミナーが無事終了しました。ご参加いただいた方々、企画・運営にご協力いただいた皆様、ありがとうございました。

少し大きめの部屋を準備したのですが、当日はほぼ満席で、多くの方から非常に有意義な会であったとのご感想をいただきました。

詳細につきましては、こちらにレポートをまとめましたので、ご一読ください。

JAT会員の方は、前半のビデオとスライドもご覧いただけます。

2013年1月15日火曜日

日本翻訳ジャーナルに寄稿しました

日本翻訳連盟の機関誌として、会員向けに年間6回発行されている日本翻訳ジャーナルにコラムを載せていただきました。


http://www.jtf.jp/jp/journal/journal_top.html
今回の号は昨年11月28日に行われたJTF翻訳済の特集号となっています。セッションごとに報告がなされているので、参加しなかった人でも会場の雰囲気を感じ取ることができます。私も参加することができなかったのですが、今年はぜひ参加してみたいなと思いました。
私は「南船北馬」というコーナーに寄稿させていただきました。オーストラリアの翻訳事情についてご紹介させていただいています。こちらからぜひご一読ください。
http://www.jtf.jp/jp/journal/bk_pdf/2013/Journal1301.pdf





2013年1月4日金曜日

台湾企業による対日投資が盛んに

昨今のニュースを見ていると、外資系企業は次々と日本から撤退し、アジアの拠点を中国やシンガポールなどに移しているように見受けられます。そんな中、年末に台湾の大手企業2社による2つの大型対日投資案件がニュースになりました。

1つは世界最大のEMS(電子機器受託生産企業)であるフォックスコン(鴻海)によるディスプレイ関連の研究開発センター設立のニュースです。フォックスコンは、大手パソコンメーカーへのパーツ提供や組み立てなどを行っており、iPhoneやiPadもこの会社が生産しています。近年、中国の工場での労働者の自殺など、労働問題が欧米や日本のメディアでも取り上げられているので、聞いたことがある方も多いと思います。2012年3月には、シャープと資本業務提携をし、シャープの筆頭株主となるための交渉に入りました。その後、世界最大規模の液晶パネル工場であるシャープ堺工場は、ソニーとの合弁が解消され、フォックスコンの郭台銘会長の投資会社が株式の約半数を取得し、社名を堺ディスプレイプロダクトに変更しています。日本での研究開発センターは、東京と大阪に設立されるという噂で、初年度の投資額は約10億ドルにのぼるようです。

もう1つは台湾の大手銀行、中国信託商業銀行による東京スター銀行買収のニュースです。東京スター銀行は、1999年に経営破綻した東京相和銀行の営業権を譲り受けて設立された第二地方銀行です。実現すれば、外国銀行による邦銀買収の初めてのケースとなります。

また、急速な円安の進行による影響で、台湾人の日本への旅行需要も再び急増しているそうです。

今年は、台湾と日本との関係がさらに密接になっていきそうです。

2012年12月31日月曜日

2012年を振り返って

2012年もいよいよ最後の日となりました。今年の10大国際ニュースをあげるとしたら、尖閣諸島国有化とその後の中国における反日デモをあげる人も多いのではないかと思います。

当の中国では、国営通信社、新華社が選んだ今年の10大国際ニュースのトップとして、米国が国防戦略をアジアにシフトしたことをあげています。オバマ大統領は、1月5日に、新国防戦略「全世界における米国のリーダシップの堅持-21世紀の国防戦略の優先事項(Sustaining U.S. Global I Leadership: Priorities for 21st Century Defense)」を発表し、6月2日には、シンガポールで開かれていたアジア安全保障会議で、パネッタ国防長官が、アジア太平洋地域での米軍のプレゼンス拡大のため、太平洋と大西洋にほぼ50対50の割合で展開する米海軍艦船の割合を、2020年までに60対40に変更する方針を示しました。


米国のこうした一連の方針は、実は今年に入って新しく出されたものではありません。2011年11月にオバマ大統領が豪州を訪問した際に、ギラード首相との会談で、豪州北部のダーウィンの空軍基地に新たに米海兵隊を駐留させることで合意し、その翌日には、キャンベラの豪州連邦議会において、今後の安保政策でアジア太平洋地域を最優先すると宣言しており、その延長線上にあるものです。


それでも敢えて中国の国営通信社がこのニュースをトップに選んだのは、米国の国防戦略が彼らにとっていかに重要であるかを物語っています。それに比べれば、尖閣問題などは、彼らにとってはちっぽけで些細な問題でしかないのでしょう。この10大ニュースの1~10というのは、時系列に沿ってあげているだけであり、順位ではないそうです。ちなみに尖閣問題は9月に起こった事件として6番目に入っていますが、ことの発端になった石原知事の地権者からの購入方針発表日である4月16日まで遡れば、4番目にもってくることも可能であり、さらに石垣市議ら4人が上陸した1月3日まで遡れば、トップにもってくることもできます。


中国に進出中の日本企業は、今年の中国での反日デモに大きく振り回され、巨額の損失を被りました。中国から日本への観光客も激減しています。また、中国からの撤退を検討し、東南アジアやインドなどへ拠点を移そうとしている日本の会社も増えているようです。中国での人件費の高騰も、その動きに拍車をかけています。中国は、その賃金の安さから世界の工場として長い間君臨してきましたが、中国政府は、さらに国際的な競争力をつけるため、付加価値の高い製品の生産と輸出へと経済をシフトさせる方針でいます。賃金が上がったということは、中国人がより豊かになり、市場としての魅力が増していくことも意味します。言い換えれば、世界経済における中国の存在価値が大きく変わろうとしているのです。


2012年は、日米中の3国の力のバランスが大きく変わった年といえるのではないでしょうか。この流れはもう変えることできません。その事実を冷静に受けとめ、米国と中国という2つのスーパーパワーとの今後のつきあい方を考えていく必要があります。これを危機ととらえるのか、逆にチャンスととらえるかによって、日本の未来は大きく変わっていくのではないでしょうか。

2012年12月22日土曜日

アジアの世紀

今年の10月28日に、オーストラリアのギラード首相が「アジアの世紀におけるオーストラリア白書」を発表しました。ブルース・ミラー駐日大使も、10月28日と12月20日にTwitterでそのことについてつぶやいています。この間、エグゼクティブ・サマリー日本語訳はずっとなかったのですが、ようやく完成したようです。10月28日に発表されてから、実に2ヶ月近くが経っています。

この白書は日本語以外に、中国語、ヒンディー語、インドネシア語、韓国語、ベトナム語に訳されていますが、日本語訳だけが「後日発表」になっていました。その背景についてはよくわかりませんが、きっと何かトラブルがあったのでしょう。


実は、この翻訳については、中国語訳の問題点がシドニーのタブロイド紙「The Daily Telegraph」の日曜版ですっぱ抜かれています。例えば、「highly skilled workforce」が「技艺精湛的劳动大军」と訳されています。直訳すると、「技術に詳しい労働大軍」でしょうか。記者は「workforce」を「労働大軍」と訳していることを批判しているのですが、中国語にはこういう言い方がないわけではないようです。Googleでも26万件ヒットするので、あながち間違いであるとは言えないのでしょう。台湾では普通こういう言い方はしないので、微妙なニュアンスは分かりませんが、直訳的な響きがするのか、古臭い感じがするかのどちらかだと思います。通常は日本語と同じく「劳动力」という言葉を使います。劳动力」で検索すると3600万件もヒットします。ヒット件数は「劳动大军」の100倍以上です。ちなみに、この部分の日本語訳は、「熟練度の高い労働力」になっています。


もう1点指摘されていたのは「world-beating actions」が「举世唯一的行动」(直訳すると、「世界で唯一の行動」)と訳されているという点です。日本語版では「ずば抜けた行動」と訳されています。ここでは世界金融危機の後のオーストラリア政府の対応について話しているので、確かにこれを「世界で唯一」と訳してしまうのには問題があります。実際のところ、リーマン・ショック後のオーストラリアの景気対策が約500億ドル(約5兆円)だったのに対し、中国はその10倍の4兆元(約50兆円)の財政出動を行なっています。欧米や日本も同様の景気対策を行なっています。どう考えても「世界で唯一」の行動ではないでしょう。


記者は、中国人留学生のコメントとして、機械翻訳を使っているのではないかと示唆しているのですが、私はそういう印象は受けませんでした。単に翻訳が下手なだけなのだと思います。ちなみに、Google Translateを使ってみたところ、「We have strong, world-leading institutions, a multicultural and highly skilled workforce」は、中国語が「我们有强大的,世界领先的机构,多元文化和高度熟练的劳动力」、日本語が「我々は、強力な、世界をリードする機関、文化と高度に熟練した労働力を持っている」と訳されました。日本語は multiculturalの部分がおかしくなっていますが、中国語はなかなかよく訳されていると思います。少なくとも政府のウェブサイトの訳よりは上手です。もう1つの「Australia's world-beating actions to avoid the worst impacts of the Global Financial Crisis」は、中国語が「澳大利亚的世界一流的行动,以避免全球金融危机的严重冲击」、日本語が「世界金融危機の最悪の影響を回避するために、オーストラリアの世界一のアクション」でした。どちらも少し変ですが、手直しすれば使えそうです。


アジアの世紀と言われる21世紀には、日本語も含め、アジア言語の翻訳の需要が今まで以上に高くなることでしょう。需要が急増する中、経験も知識も不足している「労働大軍」に翻訳の仕事が任せられれば、全体的な質の低下は避けられません。そんな中、Google Translateよりも質の低い翻訳者は、そのうち機械に淘汰されていってしまうのではないでしょうか。機械翻訳は急速に進化しています。たかが機械と侮っていて、自分の表現力の向上を怠っていると、いつの日か機械に追い越されてしまうことでしょう。いや、もう追い越されてしまっている人も少なからずいるのかもしれません。


追記:

このブログを読んだ翻訳者の友人から教えていただいたのですが、日本語版の図1に「2025年までのアジアの野地雷」と書かれています。原文は「The Future of Asia to 2025」です。2ヶ月もかけて準備した政府の公式訳にしては、品質管理がお粗末ですね。

2012年12月17日月曜日

【セミナー告知】グローバル化からグローカル化へ~多言語翻訳の現状と今後の動向

2013年最初の日本翻訳者協会東京月例セミナーでは、日本語、英語、そしてさらにもう1つの言語(スペイン語、ドイツ語、中国語)の間での翻訳を行なっている3人の翻訳者をパネリストとして迎え、多言語翻訳のおかれている現状について意見を交換し、グローバル化が進む翻訳業界の今後に関して、日英・英日の動向も含め、今後の活路について幅広くディスカッションします。

パネリスト:
姫野幸司(日・英・西)

楠カトリン(独・日・英)
孫璐(中・日・英)

司会進行:
丸岡英明(日・中・英)

http://jat.org/ja/events/show/from_globalization_to_glocalization

皆様、お誘い合わせの上ご参加ください。

開催日:2013年1月12日(土)
時間:14:00~17:00
開場・受付開始:13:30;開演:14:00(時間厳守)
会場:フォーラムエイト
所在地:東京都渋谷区道玄坂2-10-17(渋谷駅徒歩5分)
電話番号:03-3780-0008
参加費:JAT会員⊸無料 / 非会員⊸1,000円(事前
の参加申し込みは不要)
交流会:5時15分から (交流会も事前の参加申し込みは不要。当日セミナーの受付にてお申込みください。)
交流会場所:ジ・オールゲイト
交流会参加費用: 2,000円 (飲み物別料金)