昨年12月に発売された安田峰俊さんの力作「和僑」を読了しました。あとがきにあるように、この本の登場人物は、マカオの欲望の海を泳ぐ華僑の富豪、金銭とロマンを求めて男たちを狩り続ける風俗嬢、上海に二一世紀の日本人町を作り上げている駐在員たち、魔都の夜に君臨する暴力団組長、北京で日中友好の幻想に翻弄された心正しき人たち、雲南省の農村に住む2チャンネラーと、多種多彩です。
私も、豪州ブリスベンと台湾とを行き来して生活している和僑の一人として、多くの和僑たちに出会ってきましたが、それぞれの方がこの本の登場人物同様に個性的で、海外で生活することになった経緯や人生の目標、価値観も異なる方々ばかりです。私自身の生き方も、この本の登場人物たちとは大きく異なっていると思います。そして、この本の登場人物たちを取り巻く中国人、中国社会も同様に様々な側面をもっています。
日本の報道では、経済発展や、民主化運動や尖閣問題に関係するデモや暴動などばかりが注目されていますが、同じ大都市でも、北京と、上海と、香港・マカオなどを含む広東省の珠江デルタの町では、環境も習慣も言葉も文化もまったく異なります。おそらく、ゲルマン系の英独や北欧諸国などの間、ラテン系の仏西伊などの間での違いと同じぐらい異なるのではないでしょうか。私自身にとって関わりの深い台湾も、同じ中華圏でありながら、政治体制だけでなく、文化や習慣、言葉などの面で、中国大陸の他の省とは大きな違いがあります。沿岸部から遠く離れた中国の内陸部や、都市以外の中国の農村については私は詳しくはありませんが、西側社会や中国の大都市の常識が通用しない世界が広がっているのではないかと想像しています。
こうした多様性あふれる中華世界ですが、台湾や香港、シンガポールなども含めた中国人社会に共通しているのは、複雑きわまりない混沌とした摩訶不思議な魅力だと思っています。「日本人はこうだ」、「日本社会はこうだ」と一言で断言するのが難しい以上に、中国人や中国社会を十把一絡げに語ることは困難です。その訳の分からない無秩序さが、おそらくデモや暴動の背景にあるのであり、隣国である日本としては、その無秩序さに振り回されながら自分の居場所を探して求めていく能力が必要になっていくのかもしれません。
この本の登場人物たちは、そんな混沌とした中国社会の中で自分の生き方を探し出し、自分の居場所をみつけ出しているようです。今後、嫌でも中国とつきあって行かざるを得ない中で、中国にあまり関心のない人にとっても、彼らの生き方は大いに参考になるのではないかと思います。
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