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2013年2月21日木曜日

機械翻訳は翻訳者にとって脅威なのか?

今日、こんな発表がありました。


中国特許に特化した翻訳ソフト発売 高電社

この記事によると、「同商品は、各分野の技術用語に関する知識や独自の慣用表現への対応が必要な特許関連文書の翻訳で、最適化された中国語翻訳エンジンと特許辞書、専門用語辞書を用いて、高い翻訳精度を実現した」そうです。

翻訳エンジンと書いてあるからには、単なる翻訳支援ツールではなく、自動翻訳(機械翻訳)の機能があるのでしょう。

どれだけの会社がこれを導入して実際の翻訳作業を行うのか、またこのソフトがどこまで使用に堪えるのは分かりませんが、たとえ導入する企業があったとしても、特許の出願という企業の権利に関わる非常に重要な業務を、このソフトだけに頼るということは考えにくいと思います。まずは、これで仕上がった訳文を人の手で手直しする作業(ポストエディティング)が入り、さらに、その訳文が原文の意味を忠実に反映しているかどうかを確認する作業(逆翻訳)が入ることが考えられます。

この2つ目の作業も、機械ではなく、人の手に頼る必要があり、細かいニュアンスの確認や、より適切な訳の提案を行うなど、かなり高度なスキルが要求されます。中国語の特許翻訳では、完全に人の手で行われた翻訳に対しても、この逆翻訳という作業が行われているケースがよくあります。そこまで慎重に行わなければならないほど、重要な文書だからです。企業は、研究開発に非常にお金をかけており、また特許の出願にも当然お金がかかります。万が一、侵害があった場合、訴訟にまで至ることもあるわけですから、慎重にならざるを得ません。

もう1点は、膨大な量の特許情報を調査する際に、機械翻訳によってスクリーニングをかけることができます。機械翻訳されたものから気になったものだけ取り出し、翻訳者に依頼して人の手で翻訳するということが実際に行われています。

この記事にもあるように、2011年に中国は特許出願件数で米国を抜き、1位に踊り出ました。


中国で出願されている特許が日本企業の特許を侵害している可能性があるため、日本企業としては中国で出願されている特許の調査を行う必要があります。そこで、こういう需要が増えているのです。

中国市場の急激な伸びに対し、技術や法律の充分な知識をもち合わせた日中・中日翻訳者の育成が追いついていない中で、ある程度はこういう機械翻訳ソフトに頼らざるを得ないというのが現状なのかもしれません。しかし、それが翻訳者にとって脅威になるのではなく、逆にこれまでとは違う形態の新たな需要を生み出しているのではないかとも思っています。

誤解を避けるために補足しますが、私はポストエディティングの仕事をするつもりはありませんし、機械翻訳されただけの原稿を逆翻訳する仕事もお断りしています。機械翻訳されただけの原稿はひと目ですぐにそうと分かります。また、必要性をまったく感じないので、このソフトを使うこともないと思います。

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