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2012年12月9日日曜日

We love this profession too much

12月1日~3日にシドニーで開催されたAUSITの25週年記念カンファレンスは、非常に中身が濃く、書きたいことはたくさんあるのですが、オーストラリア特有の事情など、かなり説明を加えないとわかりにくい部分もありますので、詳細についてはオーストラリアの翻訳業界の特殊な事情とあわせて徐々にご紹介することにしたいと思います。まずは、これまでの25年を振り返り、今後の25年間を考えていく上で重要な、国の事情と関係のない、世界共通の問題について書いて行きたいと思います。



3日間に渡るカンファレンスの最終日は、「Twenty five years of building bridges over the language gap: Interviews with witness, movers and shakers within AUSIT」というインタビュー形式のセッションで幕を開けました。過去25年に渡りAUSITに対して大きな貢献をしてきた11人のメンバーに一言ずつ述べてもらうというものです。インタビュアーは、オーストラリアの国営放送、ABCラジオの「Lingua Franca」という番組でパーソナリティーを担当しているMaria Zijlstraです。この番組は、言語をテーマにした非常に興味深い番組で、私もときどき聞いていたのですが、残念ながら今年で終了してしまいます。番組自体はなくなってしまいますが、ABCラジオではLanguageポータルというものを作り、ここから言語に関連する番組や、Lingua Francaの過去の番組にアクセスできるようにするそうです。

このインタビューで印象に残ったのは、AUSITの創設メンバーの一人がおっしゃっていた、「We love this profession too much」という発言でした。翻訳者や通訳者は、言葉というものへの関心が非常に強く、この仕事を職業とすることを誇りに思っており、仕事への情熱がとても強いため、時にそれが裏目に出て、あまり条件がよくない仕事でも受けてしまうことが往々にしてあるというのです。この発言について、他のメンバーも賛同し、翻訳・通訳産業が今後も健全な発展を続けていくには、業界をよりsustainableなものにしていかなければならないという意見も出ました。

日本でも、言葉が好きなので、言葉を生かした仕事がしたいということで、翻訳や通訳の仕事を選択した人が多いと思います。言葉への関心が高く、情熱が強いということは、翻訳や通訳のスキルの向上につながりますので、非常に望ましいことなのですが、それが行き過ぎると、条件やレートなどはどうでも構わないから、とにかく翻訳や通訳の仕事がしたいなどということになりかねません。極端な例はクラウドソーシングで、低賃金または無償で翻訳の作業が行われていますが、その背景にあるのも言葉に対する情熱なのでしょう。

翻訳も通訳も、人と人とをつなぐ仕事なので、困っている人がいればボランティアで仕事をすることがあります。東日本大震災の際には多くのプロの通訳者・翻訳者がボランティアで被災者の援助をしました。私もときどきボランティアで翻訳のお手伝いをすることがあります。

しかし、ボランティアはボランティア、仕事は仕事とはっきりと線引をしなければ、この業界が将来に渡って持続的に発展していくことは難しいと思います。どんな仕事でも、どんな条件でも構わないから、翻訳・通訳ができるのであればなんでもやりますというのでは、日本だけでなく世界的に不況に見舞われる中、悪徳業者にうまく利用されるだけです。

言葉に対して情熱をもつことは、翻訳・通訳の仕事をしていく上で非常に重要であることに間違いはないのですが、その情熱を、レートが安くても我慢するという方向に向けるのではなく、安いレートの仕事に対してはプライドをもって断り、空いた時間を勉強や余暇などに費やして、さらにスキルの向上を目指す努力をすれば、少しずつ状況も改善していくのではないでしょうか。


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