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2012年12月4日火曜日

25年後の自分

12月1日~3日にシドニーで開催されたAUSIT(豪州通訳者翻訳者協会)の25週年記念カンファレンスに参加してきました。

3日に渡って行われたこのイベントは、業界の今後の動向から、翻訳者、通訳者の育成、試験制度、さらには理論研究など、トピックが通訳・翻訳の様々な分野に及んでいるので、内容を少しずつご紹介していきたいと思います。

カンファレンス全体を通して、レートや条件、試験制度などについての不満の声があちこちで聞かれたのですが、最終日の3日目の全体セッションでの講演の内容が、非常に希望がもてる内容でしたので、まずはこの講演を聴いて感じたことからご紹介します。

最初にこのビデオをご覧ください。


すごいですね。1964年に、アーサー・C・クラークは、50年後の世界のことを非常に的確に予言しています。

チェコに本社がある世界有数の翻訳会社、Moraviaでマーケティングを担当されているRonato Beninattoさんの「The Next 25 Years: Global Trends in the Translating and Interpreting Industry」と題した講演は、このビデオの紹介でスタートしました。このビデオにもあるように、今では東京などの大都市に住んでいなくても、タヒチやバリでも同じ仕事ができます。現在の世の中では、距離はあまり意味をなさず、「通勤」よりも「通信」の方が重要になっていることは、言うまでもありません。このことは、在宅で翻訳をしている人により顕著です。私はオーストラリアに住んでいるのですが、日本との時差が1時間しかないので、電子メールやSkypeなどを使って、距離をまったく意識せずに日本と仕事を行うことができます。インターネットのお陰で、海外にいても日本や世界各地の情報にアクセスすることが可能です。私達は、50年前のSFの世界で毎日生活しているのです。

このようなことを、AUSITが設立された25年前に想像できたでしょうか?当時は、タイプライターやワープロでの作業が中心で、手書きでの納品もまだあったかもしれません。いまだに翻訳の仕上がりを原稿用紙何枚(1枚=400字)で数える翻訳会社があるのは、その名残です。調べ物は、図書館で物理的に資料を探して行う必要がありました。

アーサー・C・クラークが約50年前に予言したこの技術の進歩を最も享受しているのは翻訳者であると言っても過言ではないでしょう。通信の発達により、どこでも仕事ができ、多くの資料をウェブ上で探しだすことができるようになったからです。やり方次第では、南の島のビーチで、海を眺めながら翻訳の作業を行うなどということも夢ではありません。また、コンピュータやインターネットのお陰で、翻訳作業をより効率的かつより正確に行うことができる環境になっています。

テクノロジーの進化によって、翻訳作業に対する報酬が下がっている分野が多いことは確かですが、逆にほとんど影響を受けずに、希少価値が今でも高く評価されている言語の組み合わせや分野も存在しています。あらゆる価格は、需要と供給の関係で決まるのです。翻訳のレートが全体的には下がっているため、今後は、翻訳だけで生活できる人や翻訳を生業にしたいと考える人の数が減っていくのかもしれません。その一方で、翻訳の需要は毎年確実に増え続けています。自分の希少価値が認められれば、自分を高く売り込むことができるチャンスも益々増えていくということです。

翻訳業界では、ここ数年で価格が全体的に下がり、悲観的な話ばかりが聞こえてくるようですが、嘆いてばかりいても何も始まりません。現状をどのように分析し、将来に向けてどのような対策を打っていけばいよいのか?25年後の自分がどうなっているのか?簡単に答えは出ないでしょうが、今後25年に渡る戦略をじっくりと立てていかなければと考えさせられました。

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