25年後の自分というタイトルでRonato Beninattoさんの「The Next 25 Years: Global Trends in the Translating and Interpreting Industry」という講演の内容についてご紹介しましたが、今回もその講演で感じたことについて書きたいと思います。
前回、25年前と現在とでは、翻訳者を取り巻く環境は全く変わっているということを書きましたが、今から25年後の世界での翻訳者の作業環境は、映画「マイノリティー・レポート」のように、こんな感じになっているかもしれません。
Ronaltoさんも、画面は小さいけれども。iPhoneやiPadなどで似たようなことはみんなすでにやっているし、将来はサンバを踊りながら翻訳なんてこともあるかもしれないと笑いをとっていました(Ronaltoさんはブラジル出身です)。
では25年後になっても今と変わらないものは何なのか、Ronaltoさんは、いくらテクノロジーが進化しても、過去25年間で変わらなかったものは、次の2つに集約できるとおっしゃっています。1つは、翻訳の本質である、1つの言語から別の言語への変換という作業。もう1つは優れたカスタマーサービスです。
高品質の翻訳云々を宣伝している翻訳会社やフリーランスの翻訳者は多いですが、Ronaltoさんは、品質を宣伝文句に使うのは無意味とバッサリ切り捨てています。そもそも、品質は相対的なものであり、自分の品質のよさを自分で訴えることは、他人を批判することにつながります。フリーの翻訳者がそれを行うことは、他の同業者を批判することになり、それはタブーです。人間なので、いくら品質に気を配っていても、誰でも必ず間違いは犯します。自分は100%正確で、まったく間違いを犯しませんなどと言い切れる人はいないはずです。だから、品質を自分の売りにするのはやめた方がいいし、自分の品質のよさは、客に言わせるのが一番という論理です。
では客はどのようにして品質を判断するのか。メーカーでは、「後工程はお客様」という言い方をよくします。翻訳でも、納品した後に、チェックなどの「後工程」が入ってくることがよくあります。この後工程で手間がかからなければ、客は高品質だと判断し、仕入れ値が多少高くても、次もまたぜひお願いしたいということになるのだと私は思っています。逆に手間ひまかけて後工程で何度も見直しし、手を加えてようやく使えるようになるものは、トータルで考えると効率が悪く、質の面でも最後まで問題が残ってしまうことが多いのではないでしょうか。
しかも、翻訳業界では、翻訳者よりもチェッカーの方がスキルが低く、持っている知識も少ないという、品質管理においては普通は考えられない状況での作業が通常行われています。また、翻訳自体の質を判断できる客も、それほど多くはありません。客自体が、ソース言語とターゲット言語の両方に精通しているとは限らないからです。
そこで品質以外に自分をアピールできる分かりやすい要素として、カスタマーサービスが重要になってきます。Ronaltoさんは、少なくとも以下の点は行なってほしいとまとめています。
- 電話がかかってきたら、きちんととって対応する。
- 納期は守る。
- 顧客のニーズが何なのか、しっかりと理解する。
- 疑問点があれば質問する。
- 自分に間違いがあったときは、素直に認める。
- 顧客との信頼関係を構築する。
すべて当たり前のことなのですが、この当たり前のことができていない人が意外と多いのかもしれません。特に最後の、顧客との信頼関係を構築するというのは、そう簡単なことではありません。
50年間変わらないものは何なのか、それさえしっかりと認識し、日々新しくなっていくテクノロジーをうまく活用していけば、25年後には、南の島のビーチでカクテルを飲みながら、自分が本当にやりたい仕事だけを選んで引き受け、悠々自適の生活ができるようになっているかもしれません。
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